2026年9月19日

JPYCの流通量は48時間で2.3倍に──増えた分の約半分は、上場後に現れた少数のアドレス群へ

TL;DR — 2026年9月17日にJPYCが韓国の取引所Upbitに上場してから約48時間で、JPYCの流通量は19.3億円から44.1億円へ2.3倍になった。増えたのはEthereumとPolygonだけで、Kaiaは逆に減っている。ChainAnalyzerが4チェーンの残高を1時間刻みで追ったところ、増えた流通量の受け皿はほぼ一箇所に集中していた。上場公告の78分後に初めてJPYCを受け取ったアドレス群が、48時間後には流通量の51.1%(ピーク54.9%)を保有している。その保有はEthereumで流通の78.4%、Polygonで56.2%に達した。一方でDEXプールの在庫は3日間で0.64億円しか増えておらず、増分24.8億円の2.6%にすぎない。9月19日に入って、このアドレス群からの外部への払い出しが始まり、発行体側は4チェーンすべてで純償還に転じた。

前報で分からなかったこと

前報では、上場日の価格乖離を分散型取引所(DEX)の実約定55,293件から見直し、報道された高値が1,000JPYC未満の小口でしか成立していなかったこと、そしてその日の新規発行の大半はDEXを通っていないことを示しました。

残った問いは単純です。DEXを通っていないなら、新しく発行されたJPYCはどこへ行ったのか。これは価格チャートでは分かりません。分かるのは、チェーン上の残高を時間軸で並べたときだけです。

そこで、2026年9月16日0時から9月19日12時まで(日本時間)の85時点について、4チェーンのJPYC残高を1時間刻みで取得しました。本稿でいう流通量は、総供給量から、発行体が公開している運用ウォレットの残高を引いたものです(ChainAnalyzerの発行体ページと同じ定義)。金額はすべて1JPYC=1円として億円で表記します。

1. 流通量は19.3億円から44.1億円へ。増えたのは2チェーンだけ

観測窓の両端を比べると、次のとおりです。

9/16 00:009/19 12:00
総供給量88.1億円212.9億円
流通量19.3億円44.1億円

総供給量は124.8億円分の発行(mint)で2.4倍になりましたが、流通量は24.8億円しか増えていません。9月19日12時時点で、総供給量212.9億円の79.3%にあたる168.8億円は、発行体の運用ウォレットの中にあって市中に出ていません

チェーン別に見ると、増えたのは2チェーンだけでした。

チェーン9/16 00:009/19 12:00増減
Ethereum1.4億円11.9億円+10.5億円
Polygon7.6億円22.4億円+14.8億円
Kaia9.4億円8.8億円−0.6億円
Avalanche1.0億円1.0億円ほぼ横ばい

上場前はKaiaが最大でしたが、48時間後にはPolygonがその2.5倍になりました。Kaiaだけが減っています。Avalancheは28.0億円が発行されたにもかかわらず、市中に出た量はほとんど動いていません。なお、Kaiaには上場とは無関係に以前から存在する大口の保有者が別にあり、その残高はこの3日間でむしろ減り続けています。

流通量そのもののピークは9月18日の夜で、約44.9億円でした。以後は微減しています。

2. 増えた分はどこへ行ったか

増えた24.8億円の行き先を保有者の側から数えると、答えははっきりしていました。9月16日時点では1円も持っていなかったアドレス群が、9月19日12時には22.5億円を保有しています。流通量44.1億円の51.1%です。

このアドレス群がJPYCを受け取り始めたのは9月17日11時06分、上場公告(9時48分)の78分後、取引開始(18時)の7時間前でした。その後の推移は次のとおりです。

時点(日本時間)流通量このアドレス群の保有流通量に占める割合
9/16 00:0019.3億円0円0.0%
9/17 18:00(取引開始)20.4億円1.4億円6.7%
9/17 21:0024.0億円5.4億円22.4%
9/18 00:0026.2億円9.1億円34.6%
9/18 09:0042.6億円22.6億円53.1%
9/19 09:0044.4億円24.3億円54.9%(ピーク)
9/19 12:0044.1億円22.5億円51.1%

チェーン別の偏りはさらに大きくなります。9月19日12時時点で、このアドレス群はEthereumの流通量の78.4%、Polygonの56.2%を保有しています。Kaiaでは7.4%、Avalancheではゼロです。前報で「Ethereum上のJPYCは全流通量の約7%しかなかった」と書いたチェーンが、48時間で流通量を8.8倍にし、そのうち約8割がこのアドレス群に入った、ということです。取引開始の時点ですでに、Ethereum流通量の51.3%がこのアドレス群にありました。

Polygon側で最初にJPYCを受け取ったのは9月17日19時31分45秒で、これは同取引所がKaiaとPolygonの入金を開放した19時23分09秒の8分後にあたります。ただし公告は誰でも読める公開情報であり、時刻が近いことから両者の関係を結論づけることはできません。ここでは時刻を並べるにとどめます。

3. そのアドレス群の動き方

このアドレス群がどう動いていたかは、転送の形からかなり細かく見えます。9月17日11時06分から9月19日12時までの実測です。

  • 282の異なるアドレスから、3,341件、合計24.7億円を受け入れている(Ethereum 181アドレス、Polygon 174アドレス、Kaia 51アドレス)。そのうち101アドレスはEthereumとPolygonの両方に入金しており、この101アドレスだけで2チェーンの入金額の89.7%を占めます。同じ送り手が、チェーンを跨いで同じ受け口に入れている形です。
  • 1件あたりの入金額の中央値は約30万JPYC(Ethereum約31万、Polygon約30万、Kaiaは約2.9万)。100万JPYCを超える入金は688件で、入金額上位10アドレスが全体の約5割を占めます。
  • 上位の入金者はいずれも通常のアドレス(EOA)で、DEXのルーターやプール、ブリッジ、既知の取引所ウォレットは上位に含まれていません。DEXでまとめて買われたものが流れ込んだ形跡は、少なくとも上位には見当たりません。
  • 受け口に入ったJPYCは、中央値で約12分の間隔で、機械的に1つの保管先へ掃き寄せられています。掃き寄せ先は3チェーンとも同じ1箇所で、受け口からの外向き送金の89〜98%がそこへ向かっています。

この「多数の送り手から受け口へ→定期的に1箇所へ集約」という形と、9月17日から9月19日午前まで外部への払い出しがほとんど無かった(3日間ほぼ流入一方だった)ことは、多数の利用者からの入金を集約する運用と整合します。ただし後述のとおり、どの事業者のものかを示す公開の裏付けは一つも見つかっていません。

9月19日9時08分から、外部への払い出しが始まりました。規模を伴う最初の外向きフローです。それから3時間で、Polygonで1.58億円、Ethereumで0.30億円が外部に出ています。同じ時間帯に、集約先から受け口への戻し(合計1.77億円)も始まりました。保有割合がピークの54.9%から51.1%へ下がったのは、この動きによるものです。なお、払い出し先が利用者への出金なのか、別の場所への移動なのかは判別できていません

4. 発行体側は3日目に純償還へ

発行体の運用ウォレットと市中のあいだのやりとりを日次で見ると、次のようになります。

日付発行体の運用ウォレットから市中へ市中から償還ウォレットへ差引
9/177.7億円0.6億円+7.1億円
9/1821.8億円3.2億円+18.6億円
9/19(12時まで)0.2億円0.9億円−0.7億円
29.6億円4.7億円+24.9億円

3日間で市中に出た純額は24.9億円で、独立に計算した流通量の増減(+24.8億円)と0.2億円以内で一致します。

目に付くのは2点です。

1つ目は、市中への払い出しが極端に分散していることです。発行体の運用ウォレットからJPYCを受け取ったのはEthereumで1,405アドレス、Polygonで2,055アドレスにのぼり、最大の受取先でも全体の0.6%に届きません(償還ウォレットへの戻りも同様で、最大1.6%)。増分のほとんどが最終的に一箇所へ集まっている一方、その入口は数千のアドレスに散らばっていた、ということになります。

2つ目は、9月19日は4チェーンすべてで純償還になったことです。この日、12時までの発行はほぼ止まり(4チェーン計0.2億円)、償還ウォレットへの戻りがそれを上回りました。ただしこれは2.5日目の12時間分の観測であり、トレンドと呼べる長さではありません。

5. DEXの在庫はほとんど増えていない

前報で「事象日にEthereumのDEXプールを通ったJPYCは、同日の発行額の約19%にすぎない」と書きました。これはフロー(通過量)の話でしたが、ストック(在庫)でも同じ結論になりました。

チェーン9/16 00:009/19 12:00
Ethereum(1会場)0.145億円0.348億円
Polygon(2会場計)0.238億円0.673億円
Avalanche(1会場)0.016億円0.017億円

3日間でDEX会場の在庫は合計0.64億円しか増えていません。流通量の増分24.8億円の2.6%です。DEXは上場日に価格が付いた場所ではありましたが、量の受け皿ではなかった、ということになります。

6. 何が言えて、何が言えないか

書いたのは「上場後48時間で、流通するJPYCの約半分が、上場後に初めて現れた少数のアドレス群の手元にある」という観測結果です。そこから先には、はっきりした線があります。

  • 帰属は未確認です。主要なブロックエクスプローラーにも、当社の登録簿にも、これらのアドレスに対する公開のネームタグはありません。動き方が入金を集約する運用と整合する、というところまでが言えることで、どの事業者のものかを示す一次証拠は存在しません。
  • 51.1%は下限側の値です。今回追ったのは、資金の流れから同一の主体と見られる範囲にとどまります。同じ主体に属する別のアドレスが見つかれば、割合は上振れします。
  • 時刻の近さは因果ではありません。公告や入金開放は公開情報であり、誰でも同じタイミングで反応できます。本稿は時刻を並べるだけで、「〜を受けて動いた」とは書いていません。
  • アドレス数は人数ではなく、数字はすべて時点つきです。保有割合は9月19日午前の3時間だけで3.8ポイント動いています。48時間という窓の切り方を変えれば、絵は変わります。

集中していること自体の良し悪しは、本稿では評価しません。観測できるのは「どのチェーンの、どれだけの量が、どこに寄ったか」という事実だけです。

ChainAnalyzerの発行体ページ(ログイン不要)では、JPYCを含む主要ステーブルコインのチェーン別の総供給量・流通量と、発行・償還イベントを公開しています。チェーン別の供給の動きを追いたい方は、/issuers/jpycをご覧ください。上場日の価格の内訳については、前報「JPYCの「4円」はどこで成立していたのか」をご覧ください。

方法と限界

  • 残高は各チェーンのアーカイブノードへの直接照会により、2026年9月16日0時から9月19日12時まで1時間刻みの85時点で取得しました(日本時間)。Avalancheのみ、アーカイブノードの応答が間に合わなかったため転送履歴から再構成し、6時点で実測値と突合しています(最大差0.001億円)。
  • 流通量は「総供給量から、発行体が公開している運用ウォレットの残高を引いたもの」と定義しています。当社の集計値であり、他社の公表値とは定義や取得時点が異なります。
  • 時系列は2つの独立した方法(残高の直接照会と、転送ログからの積み上げ)で作り、差を測っています。全85時点での最大差は0.05億円以内でした。
  • 「アドレス群」「保有者」はアドレスの集合であり、人数ではありません。
  • DEX会場の在庫は、各チェーンの主要なJPYCプールのJPYC建て残高で、網羅的ではありません。
  • 集計の終端は2026年9月19日12時で、それ以降の動きは含みません。

本稿は公開情報に基づく分析であり、特定の暗号資産の売買を推奨するものではありません。投資判断を目的としたものではありません。

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