プライバシープールzJPYCに約121万JPYC──つながりは切れても、入口と出口は公開台帳に残る
zJPYCとは
zERC20は、ゼロ知識証明(zero-knowledge proof)による「proof-of-burn」(EIP-7503系の方式)を使うプライバシー送金プロトコルです。INTMAXのコア開発者が開発したと公表されています。仕組みを平たく言うと、次のとおりです。
- 利用者はERC-20トークンをプールに預け、同額のzAsset(JPYCならzJPYC)を受け取る。
- zAssetを、秘密鍵の存在しない使い捨てアドレスへ送る。そのアドレスからは二度と動かせないため、実質的にburnと同じ意味になる。
- 受け手は、その送金があったことをゼロ知識証明で示し、自分のアドレスに新たにmintされたzAssetを受け取る(claim)。
3の証明は「どの送金に対応するか」を明かさずに検証されるため、送り手から受け手へのつながりはオンチェーンに残りません。受け手は送金とは別のチェーンで受け取ることもでき、複数の送金をまとめて受け取るバッチclaimや、一部だけを受け取るpartial claimも用意されています。
zJPYCはこのJPYC版で、zERC20の告知によれば2026年6月11日にPolygonで公開され、Kaiaでも稼働しています。コントラクトは両チェーンで同じアドレスです。
| 役割 | アドレス(Polygon・Kaia共通) |
|---|---|
| LiquidityManager(JPYCを保管) | 0x12609c3a7a1a212953417c90472cdcf034965a1c |
| zJPYCトークン | 0xd33bed4ae7fe50107c532f63740b1bf2dabf2b30 |
| claim検証コントラクト | 0x106807240d00916c0b1568f2a809f651b6701331 |
zERC20のページには、JPYC社はzJPYCの提供・共同開発・審査・推奨のいずれにも関与していない旨が記載されています。zJPYCはJPYC社の公式製品ではなく、第三者による非公式のラッパーです。
オンチェーンで見えるもの・見えないもの
zJPYCの利用は、公開台帳上では次の4段階に分かれます。
| 段階 | オンチェーンで見えること |
|---|---|
| ①入金(wrap) | LiquidityManagerへのJPYC入金。送り手のアドレス・数量・時刻 |
| ②プライベート送金 | 使い捨てアドレスへのzJPYC送金。送り手のアドレス・数量・時刻 |
| ③受け取り(claim) | 受け手のアドレス・数量・時刻 |
| ④償還(redeem) | LiquidityManagerから償還者へのJPYC払い出し |
見えないのは、②のどの送金が③のどの受け取りに対応するかだけです。言い換えると、つながりは切れていますが、資金がプールに入った時点と、プールから出た時点はどちらも記録されています。
数字で見るzJPYC(2026年6月8日〜9月18日)
送金などの件数は9月18日まで、保有残高は9月25日時点の値です。※Kaiaの入金・払い出しはzJPYCの発行・償還イベントから集計した値で、差し引きは保有残高と一致します。
| 項目 | Polygon | Kaia |
|---|---|---|
| LiquidityManagerのJPYC保有残高(9月25日) | 1,211,935 JPYC | 48,302 JPYC |
| LiquidityManagerへのJPYC入金 | 203件 / 11,678,247 JPYC | 18件 / 110,136 JPYC※ |
| LiquidityManagerからのJPYC払い出し | 163件 / 10,466,312 JPYC | 28件 / 61,835 JPYC※ |
| プライベート送金(使い捨てアドレスへの送金) | 7,296件 | 4,714件 |
| claimトランザクション | 5,494件 | 4,217件 |
Polygonの入金から払い出しを差し引くと、ちょうど保有残高の1,211,935 JPYCになります。プライベート送金は2チェーン合計で12,010件、送り手は261アドレス、送り先の使い捨てアドレスは9,850件でした。このうち、その後に何かを送り出したことがあるのは49アドレスだけです。
参加したアドレスは、入金・送金・受け取り・償還のいずれかの役割で数えて296件です。役割別には、入金したアドレスが112件、償還したアドレスが94件、受け取ったアドレスが245件でした。
月別のプライベート送金は次のとおりです。
| 月 | 送金件数 | 送り手アドレス数 |
|---|---|---|
| 2026年6月 | 1,709 | 58 |
| 2026年7月 | 5,647 | 189 |
| 2026年8月 | 3,403 | 75 |
| 2026年9月(18日まで) | 1,251 | 58 |
送金額の中央値は3,000 JPYCです。最も多い金額は10,000 JPYC(3,540回)、次いで100,000 JPYC(1,372回)で、プライベート送金の56%が1,000 JPYC以上のきりのよい金額でした。1回の最大は5,000,000 JPYCです。同じきりのよい金額が繰り返し現れる分布は、個人間の支払いよりも、キャンペーンや配布のような使われ方と整合的に見えます。ただし、これは分布からの観察で、用途を確認したものではありません。
チェーン間の偏りも見えます。Kaiaでの入金(wrap)はわずか18件でしたが、Kaiaのclaimトランザクションは4,217件ありました。価値は主にPolygonから入り、Kaiaで出ていく形になっています。受け手が送金と別のチェーンで受け取れるという仕組みが、実際に使われていることになります。
なお、プライベート送金の合計額は数億JPYCにのぼり、これまでに入金された約1,168万JPYCを大きく上回ります。同じzJPYCを受け取っては送り直すことを何度でも繰り返せるためです。送金額の合計は延べの値として読み、実際にプールに入った価値の大きさとは区別する必要があります。
AML上の位置づけ
プライバシープロトコルは合法的な道具で、取引先や給与額を公開したくない事業者や個人など、正当な使い道があります。利用そのものが不正の兆候になるわけではありません。
一方で、AML(Anti-Money Laundering、マネーロンダリング対策)の実務から見ると、プールの境界はミキサーの境界と同じように扱うのが現実的です。つまり、つながりを復元しようとするのではなく、資金がいつプールに入り、いつプールから出たかを把握し、金額に見合った確認(デューデリジェンス)を行う、という姿勢です。プールの向こう側について帰属を断定することはできませんし、すべきでもありません。
JPYC自体が備える管理機能は、JPYCトークンのコントラクトの側にあり、ラッパーの内側には及びません。プールの中ではzJPYCとして流通し、JPYCに戻るのは償還の時点です。
ChainAnalyzerでの扱い
- zERC20のコントラクト(zJPYCと、zETH・zUSDC・zBNBの各プール)をプライバシープロトコルとして登録しています。スキャンしたアドレスがプールへの入金やプールからの払い出しを行っていれば、「プライバシープロトコル」の検知として、その回数と合計額を表示します。
- JPYCの発行体ダッシュボードでは、プールが保有するJPYCの残高をチェーン別に表示しています。
- 送り手と受け手のつながりを復元することはしていませんし、仕組み上できません。
方法と限界
- データはPolygonとKaiaの公開台帳から取得しています。
- 各イベントは、上記コントラクトとのやり取りの種類で入金・送金・受け取り・償還に分類しています。
- 件数や金額は延べの値です。同じ価値が何度も送金・受け取りされる場合、そのたびに数えています。
- プールは利用され続けているため、数字は日々変わります。
- 「アドレス」は人数ではありません。また、本稿はどのアドレスが誰であるかについて帰属を行っていません。
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本稿は公開情報に基づく分析であり、特定の暗号資産やサービスの利用・売買を推奨するものではありません。